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拡散およびイオン注入

半導体において、不純物導入は主に電気的特性の変更のために行われ
ます。主にというと、主でない使い方もあるわけですが、たとえばシリサイド
化を容易にするためのイオン注入によるシリコン基板あるいは多結晶
シリコンのアモルファス化などがあります。電気的特性を変えるための
不純物導入は2つの異なる方法があります[1, 2]。

それは不純物ガスまたは不純物を含んだ酸化膜から不純物をウエハに
拡散させる方法とイオンビームを用いて不純物を注入する方法です。
拡散は半導体デバイスの歴史の始まりから存在する方法です。一方イオン
注入の場合、中電流機(Fig.1)が実用化されたのは1972 年で大電流機が
実用化されたのは、1977 年です[3]。したがって1970 年代初期までは
不純物導入は拡散炉を使って行っていました。当時は横型炉が主流で
反応管、ヒータを水平方向に配置していましたが、1990 年代に入ってからは
大気巻き込みがほとんど無い縦型炉が主流になりました(Fig.2)。



リンを含んだ酸化膜からの拡散のシミュレーション結果と、リンの一次元
プロファイルの説明図をFig.3a に示します。不純物濃度は表面から単調に
減少していくのがわかります。不純物分布は拡散温度と拡散時間で決まり
ます。イオン注入の場合をFig.3b に示します。

Figuere 3




濃度は基板内にピークを持つ分布になるのがわかります。イオン注入の
場合、不純物濃度分布は主にイオンの質量および加速エネルギーで
決まります。数十年前までは、拡散およびイオン注入は相補的に使われて
いました。しかし今ではイオン注入機は不純物のドーピングに用いられ
拡散技術はその不純物の活性化、ドライブ、欠陥回復に用いられます。
なお、CMOS ( 相補型MOS、Complementary Metal Oxide Semiconductor )
のツィンウエルのような深い接合作成には、活性化とともにxj を伸ばす
( ドライブ処理の ) ために拡散炉を使います。しかし、ソース/ドレインの
ように浅い接合の場合はxj が今度はあまり伸びないようにRTP
( Rapid Thermal Processor ) を活性化処理に用いる場合もあります。

不純物導入

拡散プロセス

前節で述べたようにディスクリートデバイス製造では不純物拡散がいまでも
採用されています。不純物拡散は、精密に制御された拡散炉の石英または
CVD コートされたSiC チューブ内にウエハをセットしてその中に目的の
ドーパントを含む混合ガスを導入して行います。またイオン注入後の活性化
およびドライブ処理の場合はN2 のような不活性ガスと酸素と水素しか使用
しません。これらの標準的な温度範囲は800ºC~1260ºC です。拡散炉の
他の用途としては、トレンチ分離やトレンチゲートの欠陥回復のために
1350℃ ( Si の溶融点:1414ºC ) 程度で使用する場合もあります。POCl3 を
ソースとするリン拡散の場合、化学反応は以下のようになります[4]。
                  (1)
五酸化リンが形成されこれがシリコンと反応し酸化膜を形成しながらP が
拡散して行きます。つまり
          (2)      
という反応になります。
1990 年前ではIC プロセスでもリン拡散が行われていました。しかしPOCl3
の場合はバブリング装置が必要になり、バブリングの場合N2 のような
キャリアガスが必要で、POCl3 の飽和蒸気圧が大気圧によって変わるという
問題があるので、他のガス(酸素等)と同様にマスフローのみで流量
コントロールができるホスフィン(PH3)が好んで用いられていました。
                  (3)
PH3 の方がコントロール性がよいと言っても、イオン注入と比べると五十歩
百歩なので、POCl3 からPH3 に変えても驚くのほどの効果はありません。

イオン注入プロセス

イオン注入は高エネルギー荷電粒子をSi などの基板へ導入します。拡散に
対する主要な利点は、より精密な制御が可能で不純物ドーピングの再現性
がよく、さらに室温に近い低温で処理ができるところです。1970 年代にイオン
注入機が実用化されてからその基本構造は変わりません。イオン注入機の
歴史を遡れば、ヨーロッパのHigh Voltage Engineering Europe ( HVEE ) ただ
一社に辿りつくからです。その後に現れたメーカは日本メーカも含めて全て
HVEE の流れを保ってきています。中電流装置の基本構成は、イオンソース
と引出し加速部、分析部、後段加速部、レンズ部、ビームスキャン部、
打ち込み試料室からなります。大電流装置においては80keV までの装置は
引出し電極のみで後段加速を持たないものがあります。後段加速部は加速
だけでなく減速もできます、これをDECEL モードといいます。 半導体で
用いられるイオン注入機は3 種になります。中電流装置、大電流装置、
高エネルギー装置、半導体工場にある数でいうと大電流機がもっとも多く、
中電流機はやや少ない、高エネルギー装置は2 台以下あるいは無い場合
があります。これらのエネルギー範囲はDECEL モードで300eV から
高エネルギー装置の5MeV 程度まで可能です。またこれらに対応した平均
注入深さは10nm~10μm 程度になります。イオンドーズ量はVth 調整の
から埋め込み絶縁層形成の の間で 
使われています。ドーズ量は半導体表面の単位面積 ( 1㎤ ) あたりに
打ち込むイオン数で表します。平均注入深さは、加速エネルギーで制御し、
ドーズ量はイオン注入の間ファラデーカップを用いてビーム電流をモニター
して制御します。 最終的に注入イオンは、電子や核との衝突により
エネルギーを失い、格子間にとどまります。副作用として格子にダメージを
与えます。しかしダメージがなくともこのままでは使えないので、拡散炉や
RTP を用いて活性化処理を行います。その時にダメージも回復するので、
あえてダメージ回復のためのアニール等熱処理をする必要はありません。

シミュレーション

イオン注入後の分布はイオン種、加速エネルギー、ドーズ量が決まれば
一意的に定まり、さらにその後の拡散は拡散温度、拡散時間が定まれば
拡散後の分布も一意的に定まります。10%程度の誤差であれば、ガウス
近似を使ってEXCEL で注入プロファイルを作成することも可能です。
ガウス近似は、Fig.4 に示した記号を使ったイオン注入後の分布は
                  (4)
となります。ここでND はドーズ量、Rp は投影飛程、σp は標準偏差を表し
ます。ここでR はイオンの移動距離(飛程Range と呼ぶ)を示します。投影と
いうのは、注入されたイオンは原子核や電子により散乱されながらランダム
に進むので実飛程ではなく、到達点からx 軸に投影した飛程を表すことを
示しています。これに熱処理を加えるとRp は変わらず、σp はが時間と
ともに大きくなっていきますFig.4 でいうと分布幅がひろがり、山が平らに
なっていくことを表します。

拡散後の分布は以下の通りです[5]。
                  (5)


ここで、D は拡散係数この場合、温度と濃度の関数になります。
t は拡散時間を表します。このEXCELシミュレータのインプット画面をFig.5 に
示します。この例はAs の場合で、黄色い背景のボックスのところがインプット
可能エリアです。この結果は以下の通り10%の誤差というのは、裾の部分が
実際と合わなくなることを示します、したがって投影飛程などはほぼ正確な
値になっています。


参考文献

[1] A. S. Grove, “Physics and Technology of Semiconductor Devices”,
  JOHN WILEY & SONS (1967)
[2] Richard B. Fair, “History of Some Early Developments in
  Ion-Implantation Technology Leading to Silicon
  Transistor Manufacturing”, PROCEEDINGS OF THE IEEE, VOL. 86,
 NO. 1, JANUARY 1998
[3] 布施玄秀、平尾孝、“ここまできたイオン注入技術”、工業調査会(1991)
[4] S. M. SZE, M. K. LEE, “Semiconductor Devices Physics and Technology”
   John Wiley & Sons Singapore Pte. Ltd. (2013)
[5] J. F. Gibbons, M. Mylroie, “Estimation of impurity profiles in
  ion‐implanted amorphous targets using joined half‐Gaussian
   distributions” Appl. Phys. Lett. 22, 568 (1973)